実数(real number)は、分数で表される有理数と無限小数で表されるような無理数を合わせたもので、下の図のように1本の数直線で表される数です。
虚数(imaginary number)とは、2乗すると $-1$ になる数(虚数単位 $i = \sqrt{-1}$)です。実数の範囲では根(ルート: $\sqrt{2}$とか$\sqrt{5.4}$ など)の中が負の数になることはありません。しかし、虚数では、実数の範囲ではありえない「2乗するとマイナスになる数(虚数単位 $i$)」 を定義します。
複素数(complex number)は、実数と虚数を用いて $z = a + ib (a, b:実数、 b \neq 0)$ と表される数です。複素数の中で、特に $a = 0$ のものを純虚数といいます。$b = 0$ だとただの実数です。
複素数の例を以下に示します。横軸の実数軸に縦軸の虚軸を加えると、これらの複素数は複素数平面上の点として、以下のように表すことができます。
1) $ 3 $ (実数)
2) $ 2i $ (純虚数)
3) $ -3 - 3i $ (純虚数でない虚数)
複素数 $z = a + ib$ で、$a$ 実部、$b$ は虚部とよばれ、$a = Re(z)$ 実部、$b = Im(z)$ と表されます。
複素数$z$ は原点0から $x$ に至るベクトル $\overrightarrow{ 0z }$ に対応させることができます。$z$ の大きさは三平方の定理から $|x| = \sqrt{a^2 + b^2}$ と表されることが分かると思います。また、$\overrightarrow{ 0z }$ と実数のなす角を、複素数$z$ の偏角$\angle z$ といい、これは $\angle z = \tan^{-1} \dfrac{b}{a}$ と表されます。
また、$a = |z| \cos \angle z$、$b = |z| \sin \angle z$と表されるので、 これらを $z = a + bi$ に代入し、さらにオイラーの公式($e^{i \theta} = \cos \theta + i \sin \theta$)を用いて変形すると
$z = |z|(\cos \angle z + i \sin \angle z) = |z| \cdot e^{i \angle z}$
と表されます。これを複素数 $z$ の極形式といいます。
複素数$z = a + ib$ に対して、$z = a - ib$ を共役な複素数といい $\bar z$ と表します。
互いに共役な複素数 $z$ と $\bar z$ について、以下のような性質があります。
オイラーの公式とは以下のようなものです。
式を見てみると分かるとおり、ネイピア数 $e$ と虚数単位 $i$ と三角関数が一つの式にまとまっています。オイラーの公式は三角関数と複素指数関数をつなげる非常に重要な公式です。
オイラーの公式の $e^{i \theta}$ の $\theta$ を $0$ から $2\pi$ まで変化させたときの軌跡を複素平面上に描くと、以下のような単位円になります。
では、オイラーの公式が成り立つことを、マクローリン展開を利用して示してみたいと思います。
マクローリン展開とは以下のようなものでした。
$e^{i \theta}$ を $\theta$ についてマクローリン展開して、 $\theta$ を $i \theta$ に置き換えると
任意の偏角 $\theta$ について $e^{i \theta} = \cos \theta + i \sin \theta$
$x = 0$ のとき、関数 $f(x)$ が無限回微分可能でならば、$f(x)$ は以下のように表される。 $f(x) = \displaystyle \sum_{n=0}^\infty \dfrac{f^{(n)} (0)}{n!} x^n$
$= f(0) + \dfrac{f^{(1)} (0)}{1!} x + \dfrac{f^{(2)} (0)}{2!} x^2 + \cdots + \dfrac{f^{(n)} (0)}{n!} x^n + \cdots$
$e^\theta = 1 + \dfrac{\theta}{1!} + \dfrac{\theta^2}{2!} + \dfrac{\theta^3}{3!} + \cdots $
$e^{i \theta} = 1 + \dfrac{i \theta}{1!} + \dfrac{(i \theta)^2}{2!} + \dfrac{(i \theta)^3}{3!} + \dfrac{(i \theta)^4}{4!} + \dfrac{(i \theta)^5}{5!} + \cdots $
$e^{i \theta} = 1 + \dfrac{\theta}{1!} - \dfrac{\theta^2}{2!} - \dfrac{i \theta^3}{3!} + \dfrac{\theta^4}{4!} + \dfrac{i \theta^5}{5!} + \cdots $
となります。この式を実部と虚部に分けると
$e^{i \theta} = (1 - \dfrac{\theta^2}{2!} + \dfrac{\theta^4}{4!} - \cdots + (-1)^n \dfrac{\theta^{2n}}{(2n)!} + \cdots) + i(\theta - \dfrac{\theta^3}{3!} + \dfrac{\theta^5}{5!} + \cdots + (-1)^n \dfrac{\theta^{2n + 1}}{(2n + 1)!} + \cdots) ①$
次に、$\cos \theta$、$\sin \theta$ をマクローリン展開します。
$\cos \theta = 1 - \dfrac{\theta^2}{2!} + \dfrac{\theta^4}{4!} - \cdots + (-1)^n \dfrac{\theta^{2n}}{(2n)!} + \cdots ②$
$\sin \theta = \theta - \dfrac{\theta^3}{3!} + \dfrac{\theta^5}{5!} - \cdots + (-1)^n \dfrac{\theta^{2n + 1}}{(2n + 1)!} + \cdots ③$
①に②と③を代入すると、オイラーの公式 $e^{i \theta} = \cos \theta + i \sin \theta$ が導けます。
複素数 $z$ が与えられたとき、これに対する別の複素数 $w$ が定まるとき $w = f(z)$ と表します。これを複素関数といいます。この複素関数は実関数の $y=f(x)$ とは異なる関数です。
複素数の集合Dの各点 $z=x+iy(x,y:実数)$ に対して、ある規則に従って別の複素数 $w=u+iv(u,v:実数)$ が定まるとき、$w=f(z)$ と表します。この $f$ を集合$D$で定義された複素関数といいます。
上記の説明から、2つの複素数の独立変数 $(z,w)$ と4つの実数の独立変数$ (x,y,u,v)$ があることに気づいたと思います。
$z = x+iy (x,y : 実数)$
$w = u+iv (u,v : 実数)$
つまり、以下のように表すことができます。
$w=f(z)=u(x,y)+iv(x,y)$
4つの変数があるということは、無理やりグラフを書こうとすると4次元のグラフが出来上がるわけですが、これを実際に描くのは困難です。複素関数では、下のように2つの複素数平面(z平面とw平面)を使って、z平面上の点や曲線が、複素関数 $w=f(z)$ によってどのように w 平面乗に移されるかを調べます。
ここで、1つのzに対して、1つのwが対応するとき、1価関数といいます。
1つのzに対して、複数のwが対応するとき、多価関数といいます。
コーシー・リーマンの方程式は、複素関数が正則であるための必要十分条件を表し、ある領域Dにおいて複素関数 $f(z)$ が正則であることを判定するために利用できます。
領域 $D$ で定義された $z=x+iy$ の関数 $f(z)=u(x,y)+iv(x,y)$ が正則であるならば、次のコーシー・リーマンの方程式が成り立ちます。
\[\frac{\partial u }{\partial x } = \frac{\partial v }{\partial y } かつ \frac{\partial v }{\partial x } = - \frac{\partial u }{\partial y }\]
またこれを略記で以下のようにも表せます。
\[u_{x} = v_{y} かつ v_{x} = -u_{y}\]
それでは、コーシー・リーマンの方程式を使って、$z=x+iy$ の関数 $e^z$ が任意の $z$ について正則であることを示してみましょう。
$f(z) = e^z =e^{x+iy}$とおくと、この式はオイラーの公式を使って展開できます。
$ = e^x (\cos y + i \sin y) $
$ = e^x \cos y + i e^x \sin y $
これは $x$ と $y$ の関数になっているので、$u(x,y)$ と $v(x,y)$ を以下のようにおきます。
$u(x,y) = e^x \cos y$
$v(x,y) = e^x \sin y$
ここで、$u(x,y)$ と $v(x,y)$ をそれぞれ $x$ と $y$ で偏微分して、コーシー・リーマンの方程式が成り立つかどうかを確認します。
$\dfrac{\partial u }{\partial x } = e^x \cos y$ , $\dfrac{\partial v }{\partial y } = e^x \cos y$
よって$ \dfrac{\partial u }{\partial x } = \dfrac{\partial v }{\partial y } $ が成り立つことが分かりました。次に、
$ \dfrac{\partial v }{\partial x } = e^x \sin y$ , $\dfrac{\partial u }{\partial y } = -e^x \sin y $
よって、$ \dfrac{\partial v }{\partial x } = - \dfrac{\partial u }{\partial y }$ も成り立つことが分かりました。
したがって、$e^z$ は任意の $z$ について正則であることが分かりました。
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